体験記(3)

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ボサノバの不思議 大内秋子
  2月中旬に左眼の白内障手術をした。2年前に右眼の手術を終えていたので、何の心配もせずに手術に臨んだのだが、予想に反して出血もあり、痛みもあった。医学的には問題無いらしいが、患者としては「アレ?」と思う。

 左眼は30年前に耳側上部網膜が薄く剥離し、冷凍凝固という今はあまり行われない手術を受け、視力は落ちなかったものの、視野の欠損が少しある。主治医の説明によると、その時の影響で結膜が固くなっているという。用心のためか眼内レンズを入れた後の小さな切開傷もしっかり縫ってくださった。

 さて痛みのことだが、麻酔してあるのに手術中から圧迫されるような痛みが少しあり、終了後病棟へ戻ったら、左眼部全体が痛い。コンタクトレンズで傷がついた時の痛みに近い感じもした。「手術は順調に終わっているので、大丈夫でしょう」と、先生は帰ってしまわれた。

 しばらく眼を瞑って「痛い、痛い」と呻吟していたが、医学的に問題無いことなら、やり過ごす以外に方法は無いと思い、持参していたCDの中で一番静かなものを選んでかけてみた。

 ジャズサックスの名手スタン・ゲッツとギターのジルベルトによるボサノバ。ヘッドホンをつけた左右の耳からボサノバが、低く柔らかく頭蓋骨の内側に響く。両眼の後ろを右へ左へ、音の粒子が幽かに撫でてくれるような感じがして、左眼の辺りに固まっていた「痛い、痛い」が少しずつほぐれて、音に洗われるように薄まっていくのが感じられた。5曲くらい聞いた時、左眼からドッと涙があふれ出して、一気に楽になった。一時間後には痛みはすっかり消えてしまい、夕食を残さず食べ、見舞いに来てくれた友人と笑って話ができた。

 翌日、主治医にこの経緯を報告したら「痛みの原因も、そんなに痛かったのが一時間で治ってしまったのも、分らないわねえ」と言われた。理由はわからなくても、頭蓋の中に静かに音が満ちてきたときの心地よさは忘れられない。以来「ボサノバは痛みに効く」と友人に言いふらしているが、「それが音楽療法なのね」と素直に感動する人もいれば、「私はボサノバは好きじゃないから、効かないと思う」という人もいる。

 私は特にボサノバもゲッツも大好きという訳ではなく、「病院で聞くなら」とクラシックを中心に数枚選んで持って行ったCDの中から何気なくかけたに過ぎない。頭痛や歯痛にも効くかどうか、いつか試してみようと思う。興味のある方はぜひ聞いてみてください。私が聞いたのは1963年にニューヨークで録音、翌年MGMレコードから出された「GETZ/GILBERTO」必ずヘッドホンで聞いてください。
   
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