「全身病と目の関係A」2

ホーム お知らせ 何って? Q&A 講演録 協力医訪問

2. 糖尿病と眼
 まず、糖尿病の方に多い糖尿病網膜症についてお話します。
2012年の調査では、糖尿病を強く疑われた方は、約950万人と言われています。日本の人口は1億2千数百万人ですから、全人口の10人に1人くらいの割合になります。40歳以上に限れば、数人に1人くらいと言われています。それくらい、多い病気です。

 そして、糖尿病を長く患っている方の糖尿病網膜症が増えています。10年間糖尿病を患っていると、何らかの網膜の変化が起きて、糖尿病網膜症に罹患している方が3割くらいいると言われています。

 20年患っている方ではもっと増えます。糖尿病網膜症で失明する方、正確には視覚障害手帳を持っている方ですが、失明される方が年間2,500〜3,000人くらいいます。糖尿病網膜症で失明するのは、増殖糖尿病網膜症の方が多いのですが、最近は、糖尿病黄斑浮腫といって黄斑が水膨れしてくるタイプの方が非常に増えています。

 糖尿病網膜症ですが、初期の単純糖尿病網膜症では、患者さんには全く自覚症状がない場合が殆どで、眼底は一見正常のように見えますが、よく見ると、ところどころ赤い点のようなものが見えます。これを、蛍光造影眼底検査で見ると、眼底の血管に「コブ」がいっぱい出来ているのがわかります。
 写真Dは、単純糖尿病網膜症の蛍光眼底写真ですが、このコブが破れて出血します。この写真の黄色い部分は硬性白斑(こうせいはくはん)といって血液の中の老廃物のようなもの、リボタンパクが血管の外に出てきて溜まったものです。この出血が溜まって、黄斑部が傷んで、視力が落ちるということがよくあります。

 この単純糖尿病網膜症の段階では、とにかく糖尿病の治療、血糖コントロールが大切です。糖尿病の方には、高血圧、高脂血症、肥満を合わせて持っているメタボリック症候群の方が多いのが特徴です。そうすると、相乗効果的に悪くなっていきますから、糖尿病だけでなく、高血圧や高脂血症も含めて、併せて治療していくことが必要です。

 勿論、血糖コントロールは糖尿病網膜症のどの段階でも一番重要です。欧米で有名なクリニカルスタディーで強化療法と言って、厳格に血糖を抑えれば視力障害になる人が少なくなるというデータも出ています。

 写真Eは、症状が進んだ方、増殖前糖尿病網膜症の方の蛍光眼底写真です。この写真で見るとわかりますが、網膜が黒く抜けてしまっている部分があります。これは、毛細血管が閉塞している部分です。こうなると、血液がこの部分の網膜に到達しないので、網膜が酸欠状態に陥ります。

 これを放置しておくと、血管内皮増殖因子という物質が出てきて、新しい血管(新生血管)が生えてきます。

 ところが、新生血管は脆いので、容易に破れて大きな出血を起こします。
それで、その新生血管の発生を抑制するために、レーザー光凝固で治療します。

 網膜剥離のレーザーは、網膜と下の膜をくっつけて癒着を作り、いわば堤防を作って網膜剥離が広がらないようにする治療ですが、糖尿病の場合は血管の詰まったところを、レーザーで焼くことによって、新生血管の発生を抑制するもので、同じレーザー光凝固でも意味が異なります。

 写真Fは、更に症状が進んで網膜に新生血管が発生し、増殖糖尿病網膜症の段階になっている方の蛍光眼底写真です。眼底のいろんなところが黒く抜けているのは毛細血管が閉塞し、新生血管から旺盛な蛍光色素の漏出が見られます。この新生血管が破れて、網膜の前や硝子体に出血が生じると視力が極端に低下します

 そして一番怖いのは網膜剥離です。新生血管はどんどん成長して硝子体の中に根を生やしていくのですが、硝子体は年齢の変化と共に縮んでいきます。ところが新生血管は網膜に引っ付いていて外れないので、硝子体の収縮とともに網膜を内側に引っ張って、網膜剥離を起こします。

 網膜剥離には、2つのタイプがあり、一つは裂孔原性網膜剥離といって、穴があいてそこから網膜が剥れてくるタイプですが、糖尿病の場合は、それと違って、硝子体が網膜を引っ張って剥がれる牽引性網膜剥離を起こします。そして、これが進行すると、どんどん失明に向かって行ってしまいます。

 網膜剥離を起こした場合は、図Gのような硝子体手術を行います。まず硝子体出血をきたしている人には、硝子体カッターという器械で出血をきれいにします。

 そのうえで必要に応じて増殖膜をカッターや剪刀(せんとう)で切り取って、網膜剥離がある場合には硝子体の中に空気を注入していって、風船を膨らますように網膜を伸ばすという治療を行います。

 今ではかなり重症の患者さんも、約8割以上視力を回復できるようになりましたが、残念ながら、重症の方で、何度手術しても、治らないという方も一割くらいおられます。

 これは治療の限界で、このような患者さんの中には、糖尿病の治療を放置していたり、眼科受診
を怠っていた人が多くみられます。

 次に、写真Hは糖尿病黄斑浮腫の方の光干渉断層計写真です。黄斑浮腫は、弱くなった血管から血液中の血漿成分が漏れ出てきて網膜に溜まり、水膨れが起きます。

 以前は内服薬、レーザー光凝固、硝子体手術などが治療の主体でしたが、最近は抗VEGF療法といって、加齢黄斑変性の治療に使う薬を直接眼球に注射するという治療が普及してきています。

 抗VEGF療法の注射薬とし一般に使用されているアイリーア、ルセンティスは非常に高価で、1回注射すると3割負担で5万円以上かかります。

 新しい治療が出てくるのは有難いことですが、1回では済まないので、患者さんに経済的負担を強いることになります。もう少し安くしてもらえないか、と思います。

 糖尿病治療の問題点として、よく患者さんや内科の先生からご質問を受けることを説明します。

 患者さんからは「私は血糖コントロールがいいのに、眼の方は悪くなっていくのはなぜですか」と、よく聞かれます。また、内科の先生から、急激な血糖コントロールで、かえって網膜症が悪化するのはなぜかと聞かれることがあります。糖尿病がよくなっているのに、眼が悪化するという現象が起きます。

 これは、まだよく分からない部分もありますが、色々なエビデンス(根拠・証拠)がありまして、網膜の血管の血液量の増加があるとか、浸透圧が変わるとか色々な事が言われています。一般的には治療開始前に長期にわたって血糖値が高い方にこうしたことが起こりやすいということが分かってきました。やはり普段から血糖値のコントロールをすることは大事です。

 また、増殖糖尿病網膜症では、前述したように新生血管が基盤となって、硝子体の収縮に伴って網膜剥離が起こります。この硝子体の収縮は一種の加齢の変化なので、糖尿病のコントロールが良くても、新生血管が一旦形成されると、眼だけ一人歩きしていってしまうことになります。血糖値のコントロールが必ずしも網膜症の進行に一致しないというのは、こういう原因があります。

 糖尿病の患者さんの中には、糖尿病黄斑浮腫が主体の人や新生血管が主体の人がいて、同じ糖尿病網膜症でもタイプが人によって異なります。その理由は我々でも良く分かりません。体質や遺伝性の要因の違いによって、網膜症のタイプに違いが出てくるのではないかということが、最近報告されています。

 いずれにしても、糖尿病は、治療を続けることが大切なのですが、治療を中断されている間に、本人が気づかれないうちに悪化してしまう患者さんが多いのが実状です。こうした治療を中断される方が多いのが一番大きな問題ですから、我々も、治療を中断されることなく、定期的に受診して頂けるよう努力しています。例えば、糖尿病健康手帳、糖尿病眼手帳といった手帳を作って、患者さんに渡して、通院を続けて頂くように促しています。

 あくまでも目安ですが、糖尿病の方は、網膜症がない方でも、半年から1年に1度は眼科を受診して頂きたいとお願いしています。大学病院は混むから嫌だと言われる方には、開業の先生を紹介しています。先ほど申し上げたように、網膜症の進行には個人差がありますから、とにかく、定期的に受診して頂くことが重要です。

 また、定期的な受診を促す取り組みの一つとして、大阪医科大学のある高槻市、茨木市、摂津市、島本町、これを三島医療圏と呼んでいますが、この医療圏内の開業医の先生や病院、保健所がネットワークを構築して、治療を中断しないように患者さんに促すといったことも行って、一定の成果をあげています。

 糖尿病は、今までお話した網膜に病気を起こす以外にも、糖尿病性角膜症、血管新生緑内障、糖尿病性白内障、糖尿病性眼筋麻痺といった病気を引き起こすことがあります。

 このように、糖尿病はとにかく眼の合併症が多いので、先ほど申し上げたように、血糖コントロールをきちんとやること、メタボリック症候群の治療を行うこと、眼科も定期的に受診して治療を積極的に受けることがとても大事です。

NEXT  BACK


Copyright(C) 2017-2018 網膜剥離って何? All rights reserved.