「網膜剥離治療の歴史と進歩」2

ホーム お知らせ 何って? Q&A 講演録 協力医訪問

手術の実際
【強膜バックリング手術】
 麻酔をかけて、開瞼器で眼を大きく開け、黒目の周りにある結膜を鋏で切開します。全周を切る場合も、部分的に切る場合もあります。眼の周りに上直筋、外直筋、内直筋、下直筋を露出させ、四つの筋肉に糸を掛け、眼球を手術がやりやすい方向に持って行って、そこで色々な操作をしていきます。

 そして、眼底を見ながら冷凍凝固をします。先端がマイナス80度ぐらいの棒のような器械を眼の強膜に当てて、内側に向かって凍らせると、網膜の外側に脈絡膜という膜と網膜の順に凍っていきます。そうすると、膜同士が強い炎症を起こしてくっ付きやすくなります。そういう状態を作っておいて、シリコンスポンジを糸で眼球の壁に縫い付けて、内側に向かって窪ませます。窪ませた孔のところに隆起がくるようにして、冷凍凝固のところが糊のようになり、張り付いて孔が塞がります。

 眼底写真を見ると、格子状変性という網膜に薄い部分があり、そこに孔が開くので、シリコンスポンジを当てて孔を閉鎖します。硝子体が網膜を内側に向かって引っ張っているので、山を作ることによって力のベクトルを緩める作業をして、裂孔が閉鎖できます。

 その後に、網膜の下にある水を抜くために、眼球の強膜の壁に穴を開けて脈絡膜を露出させ、針で突いて穴を開け、ここから水を外に逃がします。

 網膜の戻りが悪ければ、空気で内側から網膜を押さえるという方法で、眼の中に空気を入れることがあります。この時は患者さんに下を、或いは横を向いてもらいます。そして最後に結膜、テノン嚢を縫って手術は終わります。隆起した面が孔を押さえ、孔が閉鎖されて網膜剥離は治ります。
【硝子体手術】
 最近非常に普及してきた手術です。こういう技術が無かった時は、強膜バックリング手術で治していたのですが、限界がありました。難しい患者さんに対して硝子体手術をやっていたのですが、手術の技術が上がってきて、普通の網膜剥離の手術でもすることが多くなってきました。

 昔は硝子体手術の適応は、網膜の孔が非常に大きい巨大裂孔とか、裂け目が奥のほうにあるということで、スポンジが縫いにくく、奥に行けば行くほど血管が太くなり、太い血管を押さえてしまうと、眼の血の循環が悪くなります。また硝子体が出血して濁っているため眼底が見えない場合、強膜バックリング手術では治せないので、硝子体手術で濁りを取ってしまうと同時に、網膜を治すことができます。

増殖性硝子体網膜症と言って、網膜剥離を長く放置していたり、強膜バックリング手術のあと再剥離をして、網膜の前に膜が出てきてくしゃくしゃになり、皺が寄ってしまうことがあります。

 こうなると外側からの手術では孔は塞げません。さらに増殖膜が網膜の前に張りますと、網膜の伸展性が落ちて、眼球の壁に戻ってくれません。

 そういう時は中側から手術をして余計な膜を引き剥がし、網膜の可動性、網膜は元々柔らかい伸展性のある膜なので、伸展性を回復させて、空気を入れて網膜を伸ばします。

 最近硝子体手術は進化して、MIVS(小切開硝子体手術)というやりかたが非常に普及してきました。昔は20ゲージで、採血の針より少し太い器械を眼の中に入れていたのですが、最近はすごく細くなって、23、25ゲージ、今では27ゲージという細い器械で、トロカールという眼の中に器具を入れて道筋を作り、水を入れながら2ヶ所ライトを入れ、カッターで硝子体を切るというやりかたが出来るようになりました。それで患者さんの負担が減り、手術時間も短くなりました。

 網膜剥離ではないのですが、重症な糖尿病で、眼の中に異常な膜がいっぱい生えて出血が起こっている方でも、手術でかなり治せるようになりました。

 今までは、局所的しか見えないレンズでやっていたのですが、ワイドビューイングシステムというのは広い範囲が見えるので、手術が安全にできるようになりました。以前は、カッターと言って硝子体を切る器械が、切れ味が悪いと、硝子体を切っているときに、不必要に網膜が引っ張られるので、手術をやっている時に、別のところが剥がれてしまうことがありました。

 今は、優秀な器械が出てきて、手術中に起こる合併症が激減して、大きな孔がある方でも、きれいに治すことが出来るようになりました。
【硝子体手術の欠点】
 硝子体手術の全てがうまくいくわけでは無く、色々な落とし穴があります。

 例えば網膜の格子状変性。網膜の弱いところに孔が開いて、網膜剥離が起こってくるのですが、網膜の端の部分は見にくく、しかも硝子体が網膜に強くくっ付いている部位で、ここを完全に手術で取るのは難しく、硝子体が残ってしまうことが多いです。

 残った硝子体が後で引っ張って、再剥離することが時々あるので、しっかり取らなければいけないのですが、きれいに取るのは難しいです。

 端の硝子体をカッターで出来るだけ薄くして、後でレーザーをします。多少硝子体が残っていても、硝子体の引っ張りに打ち勝つだけの接着力をレーザーで付けて、網膜剥離を治しています。

 今は硝子体手術が普及しているのですが、全てがうまくいくわけでは無く、引っ張りが強く残っている人には、強膜バックリング手術を併用するということも時々やります。今後この問題を解決しなければいけません。

 以前は透明な硝子体が見えなくて薄く残り、一部分取れていなかったことがあるのですが、今はトリアムシノロンというステロイドの懸濁液を入れてやると、ゲル状の硝子体が白い粉で染まり硝子体の見落としが減るので、きれいに取っていけば、再発を起こす頻度は減っていくと言われています。

 ただ、今でもトラブルは起こります。紹介された患者さんの例ですが、硝子体手術をして、レーザーをやってあるのですが、レーザーのところが孔になって硝子体が残っているので、再手術で硝子体を取って、レーザーで固めて何とか網膜を戻すことが出来ました。硝子体を完全に取るという操作が患者さんによっては難しいこともあります。この手術で全てが治るというわけではありません。

 網膜剥離は手術が難しい方、比較的治しやすい方、その差が凄く大きい病気です。一番良くないのは、硝子体を残してしまって前のほうに網膜が釣り上げられてしまうと、なかなか治りません。

 気体の代わりにシリコンオイルという透明な油を入れて、網膜を界面張力で抑えるという方法をとります。例えば何回も手術して、網膜が疲れているのであれば、シリコンオイルでいったん網膜を戻して、元気が回復してくるのを待つのですが、これもシリコンオイルを使ったら絶対に網膜が戻るわけでは無く、シリコンオイルの下に水の層が出来て、また剥がれることもあるので、難しいです。

 残っている硝子体が網膜を引っ張り上げないように硝子体を出来るだけ丁寧に取ることが、手術で大事なことになってきます。

 アトピー性皮膚炎で、重症の網膜剥離を起こし、何回も手術を受けてなかなか治らないということで、紹介された方で、黄斑部はくっ付いているのですが、下が剥がれて、周りは増殖膜がいっぱい張り網膜が伸びないということで、頑張って手術しました。

 しかし、毛様体という眼の中で水を作っているところの機能が落ちてしまい、網膜は、一回は伸びたのですが、だんだん眼圧が下がって、眼球虜と言って、眼球が萎縮してしまって見えなくなってしまいました。こういう状態になると、治しづらくなってしまいます。何度も手術を受けると、眼に元気が無くなる方が多いです。難しい網膜剥離の場合、失明することがあります。
その他
【強度近視】
 日本人は近視の強い方が多いので、黄斑円孔網膜剥離という網膜の真ん中に孔が開いて剥がれるタイプは非常に治しづらい網膜剥離です。脈絡膜剥離と言って、網膜の外側の膜も剥がれてしまうと、硝子体手術でくっ付いても、再剥離を起こすことが良くあります。

 近視の強い方は、眼球が前後に長いです。網膜がその長さにくっ付いていけなくなって、網膜が薄くなり、強膜の色が出て赤くなります。これは網膜の下の色素上皮という膜や、その下の脈絡膜が萎縮しているので、網膜が薄くなって網膜自体に接着力が無いので、眼球がどんどん前後に伸びていきます。

 眼球の大きさはピンポン玉ぐらいで、直径は23mmぐらいですが、強度近視の方は30mm以上あるので、網膜が非常にくっ付きにくく、再剥離を起こすことが多いです。
【遺伝性の病気】
 家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)、スティックラー症候群などの家族歴がある方。例えば、両親、祖父母が網膜剥離をやった方で、遺伝性の病気を持っている方がいますが、これは非常に治しづらい網膜剥離の方が多いです。こういう病気は診断できることもあるのですが、大抵は若い時期に起こってきます。

 網膜剥離の発症は年齢的に二峰性になっていて、若い方と中高年の方がいますが、若い方の中にこういう遺伝性の病気の方が二割ぐらいいて、若いのですが、網膜の剥がれる進行が非常に早いです。

 硝子体のゲルは均一なのですが、不規則な硝子体になってしまっていることで、こういう方の治療は大変で、治しづらいです。FEVRが一番多いのですが、難治性の網膜剥離を起こすと、手術で何とか復位できても、良い視力は戻りません。

【網膜剥離の治療のポイント】
 早期発見につきます。そして早期治療しなければいけません。眼の病気全てに言えるのですが、両眼で見ていると、片眼が悪くても、自覚しないことが多いです。片眼ずつ閉じて見るということが大事になります。

 飛蚊症、光視症が起こったときに直ちに眼科に行って、眼底検査を受けると、早期発見ができます。緑内障、加齢黄斑変性など初期には自覚症状が乏しいので、眼科を受診しない人が多く、今でも悪くなって受診する人が多いので、とにかく視野に異常を感じたら、眼科で検査を受けることが大事だと思います。(会報247号から転載)
BACK


Copyright(C) 2017-2018 網膜剥離って何? All rights reserved.