後部硝子体剥離の臨床的研究2

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【経年性の変化】
 
  まず後部硝子体剥離がない状態で、中心窩周辺後部硝子体剥離が、経年性の変化として起こってきます(図3)。

図3

   左の図の矢印を付けた数箇所に、ごく浅い後部硝子体剥離が起こっています。これが基本的な状態です。

 次にこれが進むと、三つのパターンが現れます。

 一つは目の奥全体に浅い後部硝子体剥離が起こってくるものです。

 二つ目は、黄斑部の周りだけ皮質が網膜に付着し、周辺が浅く剥離するというパターンです。これが実は重要で、黄斑部中心窩のあたりでわずかに牽引がかかっています。

 もう一つは硝子体ゲルが完全にちぎれてしまい、完全後部硝子体剥離の一段階前になるのですが、うすい硝子体の皮質がまだ黄斑部に残っているという状況です。
 OCTで観察すると、このような違いが明瞭に分かります。

 加齢に伴う後部硝子体剥離では、細隙灯顕微鏡で観察できる状態になる前に、このような浅い剥離の段階があると考えられます。
 
 
【黄斑疾患に関連する中心窩周辺後部硝子体剥離】
 
 先程、比較的広い範囲で硝子体がくっついているケースを示しましたが、特発性黄斑円孔では、中心窩にピンポイントで付いていて、他の部分で、うすく剥がれています(図4)。
 
 つまりこうした剥がれ方をすると黄斑部中心窩にストレスがかかり、中心窩が腫れてきます。これは黄斑円孔のステージ1という時期で、少し見づらくなってきます。
さらに放っておくと網膜が千切れてフラップ状になります。

 これがステージ2という段階で、さらに放っておくと網膜の一部が完全に分離してしまい、黄斑円孔になります。この状態をステージ3と呼んでいます。

 まれではありますが、このようなストーリーを取らないケースもあります。硝子体が自然に剥がれ、網膜にはもうストレスがかからなくなり、孔もできません。

 病気になる一歩手前でうまく自然寛解してしまうケースがあります。ですから我々は、ステージ1や2ではすぐに手術をしません。高頻度ではないですが、自然に治る場合があるからです。

 

図4

     
 一つの例を示します。この方は、網膜がフラップ状になってステージ2の状態ですが、ここから自然に後部硝子体が網膜から剥がれ、牽引がかからない状態になりました。短期間に網膜が復位して視力も上がってきたというケースです。
 
 
【網膜裂孔に関連する浅い後部硝子体剥離】
 
 周辺にフラップ状の裂け目があるにもかかわらず、細隙灯顕微鏡で見ると、何故か後部硝子体剥離が認められないというケースがまれにですが、あります。不思議なことだと首をひねっていましたが、OCTで観察すると、実は後部硝子体剥離が浅く起こり、フラップを作っています。

 ああそうか、これはやはり硝子体牽引が働いて網膜に裂け目を作ったのかとようやく腑に落ちました。そこでバックルを使って牽引を弱めることで、網膜剥離を治すことができました。
 
 
【 後部硝子体皮質の肥厚収縮を伴う浅い後部硝子体剥離】
 このタイプが最も多く認められるのは糖尿病網膜症ですが、この他、のう胞様黄斑浮腫、網膜上膜(黄斑上膜、黄斑前膜ともいう)など、強い硝子体牽引を伴う黄斑疾患に関与しています。

 この患者さんでは、後部硝子体剥離は浅いのですが、膜が厚く牽引が強いため、糖尿病黄斑浮腫になっています。こちらの方では後部硝子体剥離は起こっておらず、強い牽引はかかっていません。硝子体牽引は、黄斑浮腫を悪化させる原因の一つです。OCTで観察して牽引が認められる場合には、ステロイドで治療するだけでなく、硝子体手術で牽引を取り除くことが必要です。

 網膜上膜は、黄斑部の網膜に薄い増殖膜ができ、膜が収縮すると中心窩が引っ張られ、歪みが出て、視力が落ちるという病気です。

 先程、経年性の浅い後部硝子体剥離の1パターンに、硝子体ゲルが千切れた後に、皮質が黄斑部に残るケースがあると言いましたが、この残存硝子体がもとになり、網膜上膜になることがあります。この他、目の中の炎症や、網膜剥離の手術の後などにも、膜が出来ることがあります。OCTで観察して網膜上膜であると分かったら、これも手術が必要です。

【 後部硝子体剥離の分類から考える硝子体手術】
 ではこのような分類は実際の臨床治療にどのように関係しているでしょうか。
後部硝子体剥離の状態を、術前に分類診断することは、硝子体手術を安全、確実に行う上で必要不可欠です。

 硝子体手術の基本は、安全に人工的な後部硝子体剥離を作成し、可能な限り硝子体を切除することです。

 しかし糖尿病網膜症などでは、新生血管や増殖膜が障害となり、医原性の網膜裂孔や出血などの合併症が発生することがあります。そのため硝子体切除が不完全になると、網膜剥離の再発や再出血、網膜の雛などの原因となります。

 そこで我々は、安全かつ効率的に、人工的後部硝子体剥離を作成する方法を考え、10年ほど前にTotal en bloc excision(ひとつの塊として切除する方法)を発表し、硝子体手術の基本手技としてお勧めしています(図5)。

図5

   この方法は、まずコアビトレクトミー(硝子体の中央部を取り除く手術)を行います。

 次に一番癒着の強い視神経乳頭で、硝子体をはずします。ここでは神経の補強をするグリア細胞が丸いリングを作っています。

 経年性の後部硝子体剥離が起こった後、目の前に輪のようなものが見えると訴える方がありますが、それがグリアリングです。

 そのグリアリングをひっぱって、硝子体の後ろ側全体をはがします。この他に癒着の強い部分があれば、残しておいて最後に処理するという手技をスタンダードとしています。

 このようにして後部硝子体剥離を人工的に起こすことができますが、比較的正常な目に近い、網膜上膜というような病気ですと、経年性で起こる自然な後部硝子体剥離と同じような状態になることがあります(図6)。

 つまりゲルだけを切除して、硝子体皮質が黄斑部に残存した状態で手術を終了してしまい、その後の黄斑パッカー発生の原因となる場合があります。このようなことが起こることを意識して、黄斑部の硝子体皮質を確実に除去することが必要です。 

 
 増殖糖尿病網膜症の場合、この手技は非常に有効です。この病気では通常視神経乳頭の周りに新生血管が出来てきます。ですからグリア環を取るだけで、ほとんどすべての新生血管を取り除くことができます。

 この動画は後部硝子体剥離のない増殖糖尿病網膜症に、硝子体手術を行っているところです。

左に明かりを入れ、右にカッターを入れて、コアビトレクトミーをやっています。白っぽく見えているのが、新生血管及び新生血管の周囲に生じた増殖膜です。

 かなり広範囲に増殖膜がありますが、後部硝子体剥離は起こっていません。

 

図6

     
視神経乳頭の所にフックを入れて人工的後部硝子体剥離を起こしていきます(図7)。
 

図7

   従来の方法では、視神経乳頭のところから放射状に切り開き、その後細かく断片化された増殖膜を切除する方法がとられてきましたが、この方法では効率よく剥離を起こすことは困難です。

 まずグリアリングをはずすという手技を使うことで、一気に後部硝子体剥離が起こり、増殖膜も一塊として取れます。これは一見野蛮なように見えますが、実は安全性を考えてやっています。

 ただしところどころ新生血管が網膜から増殖膜へ立ち上がって来るところがあります。こうした箇所は癒着が強いので、引っ張ると網膜が裂けることがあります。増殖膜の裏に網膜との異常な癒着がないかを確認しつつ、人工的後部硝子体剥離の作成を進めていきます。

 そしてある程度後部硝子体剥離が起こったところで、網膜にストレスがかかっていないことを確認して、増殖膜を取り除きます。
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