強膜バックリング術後の複視(2)

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【手術後の問題

 網膜剥離の治癒率は、格段によくなってきました。ところが今度はもっとよい見え方が要求されるようになりました。「網膜剥離は治ったが、ものが歪んで見えたり、ダブって見えて辛い」という悩みを訴える人が出てきました。

 もちろん大部分の患者は良くなって視力も回復しています。しかし中に辛いという人があります。これは眼球運動の障害と考えられますが、頻度はいろいろです。1、2割ぐらいから、8割ぐらいという報告もあります。

 左眼のバックリング手術で網膜は復位した方です。この方の左眼の位置は右眼は真っ直ぐなのに、外側にむいて上にずれていることがわかります。「下を見て下さい」というと、右眼はすぐ下を見るのに、手術をした左眼はなかなか下を向けません。正面を見た場合、左眼と右眼は別々の世界を見ているので辛い。おまけに下を見たらもっと辛いといったことがあります。

 手術の直後ですと、手術が原因と分かるので、バックルの位置を短くすると、ずれが少し減ってきました。2ヶ月すると、ずれも収まり、眼も下に動くようなりました。最初と最後の写真を比べますと、ずれていた眼は、バックルの位置を切ることで目の位置が正常になってダブって見えるのが解消しました。

 これでよかったかというと、黄斑パッカーといって、目の上に白い膜ができて、網膜自体か歪んだ形になりました。患者さんは物を見ようとすると、歪んで見えると訴えます。これが合併症で、今度は膜を除く手術をして、初めて歪みが解消しました。最初にダブって見え、次に歪み症状が出ましたが、いずれもこのような処置で治りました。

 こうした症状の方は決して多いわけではありません。手術の後にあっても次第に消えていくことが多いのが普通でした。しかし、中には、いつまでも続いて患者さんを悩ませる場合があり、生活に支障を来たす事も多いので、それについて検討してみました。この詳細は自治医科大学医学部紀要に掲載してあります。

 まず古いカルテの即ち1980年ぐらいから2005年までの自治医大の弱視斜視専門外来に来られた方を調べました。強膜バックリング手術後の複視を主に訴えられた方は12人ぐらいでした。年齢を見てみますと、21歳から67歳と幅広くいました。手術後2週間ぐらいでダブって見える人、10年程おいてダブって見える人もいるといろいろです。

 1ヶ月未満でダブって見えた人、1年以上たってからダブって見える人もいるという具合で、術後の期間から原因を見出すわけにも行かないのです。手術回数も1回の手術で網膜は復位したが、ダブって見える、3回やった後ダブったという人もいます。

手術方法は、自治医大で輪状締結術を受けた人が7名で、他の施設で受けた人もあり、その手術の詳細は不明です。術後視力もばらばらでした。0.2が1例、0.3、0.8が1例、それ以外は1.0以上と比較的いい視力が得られています。言い換えると、いい視力なので、かえってダブリが強く感じられるとも言えます。

 目の位置のずれは、殆ど上下のずれであるのが特長でした。これは人間は水平方向にちょっとずれがあっても、融通が利くのに、上下はちょっとのずれでも融通がきかない、ものを重ね合わせて見る許容範囲が狭いという特長があるからでしょう。バックルを置いた方向と運動障害の方向が同じという場合が1例、反対方向が3例ということで、バックルの位置との関連もはっきりしません。

 治療としては、斜視手術が5例、バックルを取ったものが1例、ダブリ解消のプリズム眼鏡で解消したのが2例でした。自然に解消した例もあり大部分は改善されていました。しかし変わらないとか、ずれの程度が変動しただけという方もいました。

 診断や手術のためには正確な検査が必要です。今回のご支援は検査・治療に必要な機械のために使わせて頂きました。

 目の位置を検査する機械とか、三角形のプリズムなどダブリを調べるレンズなどを用意できました。光を当ててどこでダブリが解消するかを調べる機械で斜視の手術方法は眼筋肉に糸を掛けて、後ろにずらすとか、筋肉に機械を掛けて眼の方向を正すとかいろいろです。眼の奥の筋肉に糸を掛けて目の位置がずれないようにする、最近ではダブリがある人について下直筋(真っ直ぐ下に引っ張る筋)をずらして別のところに縫い直す特別な手法も報告されています。

 また手術までの期間、ずっとダブったままだと辛いので、プリズムを当ててダブリを一時的に解消できるのであれば。眼鏡の後ろに張ってダブリを解消するビニールのようなものを使って一時凌ぐ事も試みました。

まとめ

 バックリング手術後の患者さんの訴えはさまざまで、多くは良くなることが多いのですが、長く続くこともあります。その中には斜視の手術が必要とか、バックルを取らないといけない人もいます。

 また眼鏡の調整だけで、複視が解消した人もいます。症状の出方も今日は良くて、次の回には悪いなど変動することもよくあります。悪いときに治療する、良いときとは逆さにずれてしまうといったことも起こるので、その見極めも必要です。慎重に構える必要があります。

 医療をするものは、手術を受ける前に患者さんに良く説明しておくことが大切だと思います。患者さんにとっては自分の受けた手術について良く聴いておくのが大切なことだと思います。

こ れからの診療に役立つように一例ずつ患者さんの話を丁寧に聴き、記録を積み重ねていきたいと思っています。ご支援に感謝し、いっそう励みたいと思います。 以上

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