白内障手術について(2)

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【問題点と合併症】
 
白内障手術前の患者説明では眼科医は99%安全と申しています。しかし、わずかに1%以下といっても実に多種多様な合併症があります。
 
《手術中の合併症》
 
◆駆逐性出血
 
 手術は眼球の中に水を流しながらしますので、眼球の圧は出来るだけ保つようにしますが、器具を抜いたりした拍子に眼球の内圧が減ります。急激に減ったときに眼底の調子の悪い人、糖尿病とか、強い動脈硬化のある人、出血性疾患のある方や、強度近視で網膜の荒廃した方などの場合、眼底で血管が破綻して出血することがあります。大きな出血を起こすと、中の硝子体や網膜迄が圧迫されて傷口から押し出されてしまうといったことが起こります。

 傷口が大きいほどこの駆逐性出血は起こりやすいのです。昔の嚢内法では数百件に1件くらい起こりました。水を入れながらの手術ではないので眼球の内圧が長時間低くなっていて、欝血状態が長引くので、起こりやすかったといわれています。現在は傷口が小さく、内圧の安定を計りながらやっているのでほぼゼロといっていいでしょう。しかし他の手術、硝子体手術と緑内障手術では内圧の変動が激しいので、駆逐性出血は今でもおこります。
 
◆後嚢破損
 
 手術後に残っていなくてはならない後嚢が破れてしまうことがあります。核を吸引している最中に、術中に後嚢を引っかけてしまう、これは薄い膜なので、少しのことでも破れやすいのです。破れたときには虹彩の根元のところにレンズを入れます。嚢外固定といいます。大抵はこれで事無きを得るのですが、処理がうまくいかないと、硝子体脱出といつて硝子体が後ろから出てきたり、核落下といって、残っていた核が眼底に落ちてしまうといった事故が起ったりして難渋することがあります。

 重篤な合併症なので見ておられてあまりよい気持ちはしないでしょうが、これは希に起こることとしてお聞きください。

 核落下の原因としては堅い核の場合が多いようです。熟練者でも難しくて後嚢を破ってしまう、破るのはともかく、その時の処理が悪くて落ちてしまうということです。落ちやすい原因には硝子体の液化があります。硝子体が元気で後嚢を支えていれば後嚢を破ることは少ないですし、核が落ちることは殆どありません。液化が進んでいるのは高齢者、強度近視の人、硝子体手術後の患者さんです。小さい核が落ちた場合は放置しておいても問題ない場合があるのですが、かなり落ちている場合は、硝子体手術に切り替えて取り除きます。
その施設に設備がないときは、いったん傷口を閉じて、大きい病院で再手術をします。
 
《術後の合併症》
 
 これはたくさんあります。まず術後の屈折に関する問題点ですが、たいていの方は遠くが見えるほうがいいということで、遠くが見えるようなレンズを入れまして、近くは老眼鏡を使用してもらいます。ところが強度近視の方の場合遠くが見えるように計算して入れても、かなり誤差を生じ、結局、眼鏡で矯正する場合もあります。それでも最近は強度近視の専用の補正式が開発されまして、比較的誤差がなくなりました。

 また網膜剥離で黄斑部が剥離している場合、硝子体手術と同時に水晶体も取って眼内レンズをいれますが、黄斑部が剥離していますと、眼軸値を計るのに誤差が生じます。この場合やむを得ず反対の正常の眼の眼軸値を参考にレンズを入れます。既に網膜剥離手術を受けた人で輪状締結術の場合、眼軸が伸びて近視化しますので、その後白内障手術をする場合には、近視化した分を上手に、減らしてあげるように配慮します。あるいは白内障手術を受けていて後にこの手術をすると、それまで見えていたのが近視化して眼鏡の変更を要するといったことが起こります部分強膜内陥術の場合は乱視、それも複雑な乱視を呈する場合があります。最近はこういった複雑な乱視もコンピュータで解析して白内障手術時の参考にするという研究が行われています。

 術後の高眼圧は比較的よく見られます。ステロイドに対する反応の強い方は術後に投じたステロイドの点眼薬で眼圧が上がる場合があるので、その時は中止します。

 網膜剥離と白内障手術が同時に行われた場合、眼内に膨脹性のガスを入れますが、このためかなり眼圧が上がるケースもあります。その場合はガスを少量抜いたり、入れ替えたりで対処します。

 難治性の網膜剥離には時にシリコンオイルを入れますが、オイルが前房に出ることで眼圧が上がったり、長期間シリコンが入っている場合シリコンの乳化によって緑内障が発症することがあります。

 術後の角膜内皮障害ですが、通常の白内障手術だけでは、まず起こりませんが、以前から角膜内皮が悪かった方、合併症が多くて手術に時間がかかったとか、白内障の前に緑内障手術が先行した場合などに起こりえます。
 
◆眼内炎
 
 次が眼内炎です。現在日本では手術2000件に対して1件の割合で起きています。1年間の日本での白内障手術が80万件から90万件近くなされていますから、相当数の眼内炎が発生していると思われます。アメリカでは900件に1件で、日本の2倍以上おきていることになります。

 眼内炎には2種類あります。早発性は術後2週間以内に起こります。ほとんどが術後3日から1週間の間に起こります。今のシステムでいうと日帰りの方は家にいるし、入院でもこのころには自宅に帰っているわけです。病院でなく家で起こる合併症です。これは手術中に強毒菌が侵入して炎症を起こすもので、起きたらすぐに病院での処置が必要です。痛みを伴うことが多く、急激に視力がなくなります。遅発性は早くても2週間、大抵は数ヵ月後から2年後ぐらいに起こり、弱毒菌が原因です。これは常在菌といって常に人々の周囲ににいる菌です。菌の量がたくさん入ったときに発生します。症状が似ているため、虹彩炎との判別が難しいものです。私の経験では早発性の場合はレンズを除かねばならないケースが多く、術後の視力はあまりよくありませんでした。遅発性の場合は、レンズは取り除かずに治療できて、視力はよいものが残っています。

 怖いのは早発性で、そのため白内障の術後まず10日間は、手術した眼がちゃんと見えているかどうか自分でチェックして下さい。朝だけでなく夜もです。
 
◆眼内レンズ位置の異常
 
 入れたとき中央にあっても、長い間たつとレンズがずれてしまうことがあります。術後の炎症のきつかった人とか、固定するとき小さいミスがあったとか、前嚢が時間の経過と共に縮んでくるなどのことがあってレンズがずれてしまいます。硝子体手術のとき、ガスを入れますが術後のうつ伏せがうまくできなかったりすると、レンズが押されてずれてしまうことがあります。

 また脱臼といって、レンズが落ちてしまうことも希にあります。これにも2種類あり、早発性の場合は後嚢破損後のレンズ挿入の手技に問題がある場合が多いです。この場合レンズを前嚢の前にのせる方法と、また大事を取って縫着といって細いナイロン糸で眼球の壁に縫い付けるという方法があります。しっかりやればレンズは固定されるのですが、不安定な状態でレンズを入れたら落ちてしまうということがあります。

 遅発性の場合は、いったん綺麗に入ったたレンズが長い時間の経過とともに毛様小帯が緩んで落ちてしまうので、術者には責任がなく、眼球組織の脆弱化のせいで落ちたというわけです。眼内レンズを入れて何十年もたった今頃、こういうケースもあるわけです。落ちたレンズは特殊な薬剤で浮き上がらせます。取り除いて新しくすることもあり、元のレンズを再利用することもあります。

 眼内レンズ自体の濁りこれは眼内レンズが始まったころには全く想定外でした。手術説明の時には「レンズは綺麗なままで50年はもちます」といっていましたが、このようなことが起こるとそれも言えなくなります。あるタイプのレンズは白く濁ってしまい、摘出する場合がかなりありました。これは日本で1番使われているレンズですが、グリスニングといって細かい気泡がレンズの中に出ることがあります。これは視力は下がりませんが、眼底検査をしにくくしてしまいます。その後は材質も改善されて起こらなくなりました。
 
◆後発白内障
 
 白内障手術もうまくいってレンズもきちんと入って一時期視力もでてハッピーだったのですが、残した後嚢が濁ってくることがあります。早くて2、3週間、遅くて2、3年後に起こります。5年10年ということもあります。一面に粒のような濁りが生じるタイプと線維性の白い濁りが生じるタイプがあります。ヤグレーザーを使って後嚢の中央に穴を開けます。レンズに何の影響も残さず後ろの袋だけに穴を開けることができます。

 後部硝子体剥離の起こっていない患者さんの場合、ヤグレーザーをしますと、治療後に網膜剥離が起こることが希にあります。
 
◆嚢胞様黄斑浮腫
 
 黄斑部に浮腫が起こり、網膜が厚くなり、視力が0.3とか0.44に落ちてしまうことがあります。糖尿病の方などに多いのです。最近では非ステロイド性の点眼薬で予防効果がでています。これも手術が順調にいけば滅多に起こりません。後嚢が破れて虹彩に硝子体がからんだりしますと、慢性炎症が生じ、それが原因で起こることがあります。最近ではケナコルト(ステロイド剤)のテノン嚢(結膜と強膜の間の薄い膜)下注射も治療に用います。
 
◆術後の網膜剥離
 
 術後の網膜剥離は嚢内摘出の時代には数%ありました。硝子体が動くので剥離が起きたのです。しかし超音波法になってからは1%以下に減っています。小切開ではさらに減っています。

 しかし最近は手術を受ける方の年齢が若くなり、50代が増えてきて、その結果、後部硝子体剥離の起こっていない患者さんにに手術をするケースが少なからずあります。手術によって硝子体剥離が惹起され、網膜剥離が起きるという事態が生じるので、剥離の起きる確率はゼロにはならないでしょう。網膜剥離の起こる可能性のある人は、術後に瞳孔がよく開くようなきれいな手術をすることが望ましいです。
 
 

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