糖尿病網膜症の治療2

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【糖尿病網膜症
 まず正常な眼底について説明します。これはわりと若い方の例です。視神経と眼底がくっ付いてところを視神経乳頭といって、網膜の視神経線維を集めて視神経を送る入口に当たります。大体直径1.5ミリぐらいです。

 ちょっと黒くて少し窪んでいるところは黄斑部と言います。黄斑部は物を見るのに一番大事なところで、視力1.0以上あるのはこの部分だけですし、色がわかるのもここだけです。他の部分は動きであるとか、明暗がわかるものですから、黄斑部が機能しないと見えないのです。

 網膜剥離になっても、黄斑部が無事であれば視力低下しないわけです。ただ網膜剥離というのは一カ所起こると、必ず全部に波及するので、見つけたら直ぐに治さないといけないのです。眼科としては、とにかく剥離が黄斑部に及ばないように早く治さないといけません。

 ただし、黄斑部だけに孔が開く黄斑円孔というのもありますし、今話題になっている加齢黄斑変性も、先にここに病気が出てしまいます。そうするとまわりは見えて、視野は広いけれど、真ん中だけ見えないというような病態になります。

 次は糖尿病網膜症の眼底です。
まず眼底から最初にお見せしますけど、さっきの正常眼底と見て違うのは白いものとか、黒っぽい赤い斑点が見えます。こういう大きめな赤いものは出血です。やや赤黒い丸いものは動脈瘤で血管の瘤です。糖尿病網膜症の特徴の一つですが、マイクロアナリスムという微小動脈瘤があちこちにできます。それから網膜のいたるところに出血があります。

 眼底の白斑と言うものもあります。白くてくっきりと境界が鮮明なのは硬い感じに見えるので、硬性斑と言います。硬性白斑と言うのは網膜の血管が病的な血管になると、蛋白や脂肪等の血管内容物が漏れてきて、漏れたものが溜まって白く見えるのです。

 同じ白斑でも、ちょっと周りがぼやっとした境界不鮮明な白斑は軟性白斑、柔らかい白斑と言います。軟性白斑のほうは物が溜まっているのでは無くて、血管が詰まったために一時的に浮腫になったものです。その浮腫が綿のように見えるので、綿花様白斑とも言います。この軟性白斑のほうが、病気としては進んでいると考えます。

 これはまだ前増殖期ですが、だんだん進んでいきますと、大出血を起こします。恐らく新生血管が破れているのだと思いますが、こんなに網膜の前に出血すると、この部分はまったく見えないです。

 しかもこの方は出血が黄斑部にかかっていますから、視力は0.0いくつしか見えません。眼を横に逸らせば、ちょっとこの辺が見える程度の状態となります。

 これがさらに進行して、元来は無い細かい血管、新生血管が出てきて、増殖期ということになります。血管の中には色んな成長因子とか増殖因子というのがありますので、血管が切れて出血すると必ず膜を形成してきます。瘡蓋みたいなものですね。

 その膜が非常に問題で、糖尿病の場合にはその膜にまた血管が入って行って、何かに引っ張られると破れて、その血管からまた出血して、膜がどんどん増えていく。そうこうしているうちに網膜を引っ張って、網膜が破けたり、剥がれたりするわけです。ですから普通の裂孔原性の剥離と違って、ただ孔を塞いで剥離を治すということでは治らないのです。こういう血管を一つ一つ全部取り除いて、しかも網膜をくっ付けないと治りません。

 症状がもっと進むと硝子体に出血して、もともと透明な硝子体が真っ赤になって、手動弁という自分の手ぐらいしか分からない状態になります。それもだんだん進むと、硝子体出血も膜になり硬くなって、この症例のように広い範囲で網膜剥離を起こします。かなり進んだ網膜症、ほとんど光しか見えないような状態になっています。このような経過で悪くなっていくわけです。

 今までの話をまとめてみますと、糖尿病網膜症の分類というのは三つになっています。単純型網膜症と前増殖期網膜症、このふたつはまだ大体物が見えていることが多いですが、三つめの増殖性網膜症で、増殖期になると様々な理由で見えなくなります。

 眼科としての所見は先ほどお話しました微小動脈瘤ですね。真っ黒、赤黒いような小さい血管の瘤とか出血。硬性白斑というのは網膜の血管から内容物が漏れて溜まるもの。あとは当然液体も出るので浮腫になる。これは全部糖尿病による血管の病気です。

 その動脈瘤ができた所が、透過性が上がって漏れてくる。漏れれば内容物の蛋白が貯まって白斑も出るし、血液が出れば出血するし、あと液体が出れば浮腫になります。もっと進行すると前増殖期、PPDR(前増殖型糖尿病網膜症)と言います。前増殖期というのは新生血管が出るちょっと前という意味になります。

 眼底所見は色々ありますが、一番困るのは新生血管です。網膜症のポイントは、新生血管があるか無いかで全然違う。ただその間に前増殖期を設けているのは、ちょっと危ないよという警告みたい感じです。前増殖期になれば、我々も、患者さんも気をつけなければいけない。

 増殖期になるとレーザーをしたり、手術をしないと治らなくなります。それから異常毛細血管と言って、血管が潰れると、その潰れた部分の酸素を補うために異常な血管が張ってきたりします。病気はどんどんどんどん複雑に、更に悪性化していくわけです。

 血管が閉塞すると、無管エリアというのが出来て、これが新生血管を起こす原因ということがだんだんわかってきました。無管エリアからVEGF(血管内皮細胞増殖因子)という、新生血管を出す因子が出て、新生血管が出る、レーザーの治療というのは、この無管エリアを潰して新生血管にいくのを止めるというような治療です。レーザー治療する目安というのは、この前増殖期です。

 だから治療をするために、前増殖期かどうかを見極め、レーザーをやる時期を決める病気分類は非常に大事なんです。ところがいったん新生血管が出てしまいますと、網膜が破れて出血を起こしたり、虹彩とか隅角に新生血管が行くと、緑内障を起こします。ですから剥離と緑内障のどちらかで、失明していくというような病態になります。

 元を辿っていくと、もともとは血管障害がこの病気の本態です。これは腎臓でも、神経でも全く同じだと思うのですが、眼の場合には患部を覗けますし、写真を撮れますので、非常に病気の進行がわかりやすい。ですから、早めに眼科に来てさえくれれば、手は打てるわけです。

 見えなくなる原因をまとめると@黄斑部に浮腫が出たり、白斑や出血したあとが物理的にブロックして見えなくなる。A膜に引っ張られて網膜が剥がれてくると見えなくなる。B網膜の出血で隠れてしまう。C硝子体出血に遮られて見えなくなる。D網膜剥離になる。E新生血管ができて緑内障になって見えなくなる。

 単純型の場合は、血糖コントロールだけで治ってしまう人もいますが、コントロールが悪いと、いくらレーザi治療や手術をしても、何度も再発をして、最終的には失明することになります。

 だから血糖コントロールを守らない人は何をやってもだめだと思って下さい。そうしないと本当に治らない。逆に言えば、早めに発見してコントロールをきちっとやれば、治療や手術をしなくても治ってしまう人もいます。白斑とか出血が治って、10年も20年もいい視力でいる人がいっぱいいるんです。稀に血糖が安定していても悪くなる人もいるのですが、そういう人は、今はいいけれど、10年くらい前は悪かったという人です。眼科の内服薬は結局止血剤であるとか、浮腫を引かせるような対処的な薬です。

 とにかく血糖コントロールをきちっとやれば失明することはほとんど無いと思います。
増殖期になって来ると、レーザーで血管の漏れているところを直接凝固したり、無管エリァをレーザー治療して、新生血管を増殖させる因子が出ないようにするなど、とにかく進行させないことが大事です。どうしても治らないという場合にはやむを得ず硝子体手術をします。

 これは単に出血を除いただけでは治らないので、膜を取ったり、レーザーをしたり、無管エリアというところを凝固したり。剥離を治しても、また再発した場合はシリコンオイルを入れたり、ガスを入れたりしないと治らない。剥離の中でも第一級に難しい病態になってしまいます。

 これはレーザーで局所を打つ治療の一例ですが、実はもう既にあちこちレーザーをしてあって、周りは安定しているのですけれど、黄斑部に白斑がかかっていて、赤黒いのは動脈瘤です。白斑は輪状の配列で、この円形の真ん中に血管の漏出点があり、そこにレーザーをすると漏出が止まり、治ります。レーザー治療をしたばかりの時は、そこに白い凝固斑が出ます。予定通り真ん中です。

 数ヵ月経つと、この白斑は激変しています。直接打ったわけじゃないんですが、漏出点をレーザーすることで消えていく。この例だと視力は1.0ぐらいに戻っています。非常にラッキーな例で、場所的にもレーザーを打ちやすいところにあったので非常にストレス無くできました。

 血管にフルオレセインという造影剤を注射して螢光眼底造影写真を撮ると、フルオレセインのあるところだけが白く写る。普通は血管がフルオレセインを通すことはないので、正常眼なら血管だけしか写らないはずなんですが、糖尿病の眼は血管の透過性が冗進して造影剤があっちこっちから漏れてくるので、血管の中のものが出ているところが分かります。それからここに、普通はややグレー状に見えるところが、真っ黒になっています。こういうところは、毛細血管が無くなっているところです。これが無管エリアで、本来有るべき毛細血管が無くなっている。少し離して見ますと、いっぱい無管エリアがあります。

 動脈瘤がある場合、動脈瘤にも色素が溜まるので実際は赤黒く見えるんですけど、造影写真を撮ると真っ白い点がいっぱいあるように見えます。白く見えるところは全部動脈瘤です。それから新生血管の芽も真っ白く見えます。

 無管エリアがありますと、虚血になっていて、酸素不足だから新生血管が欲しいよというような信号が出ますので、ここに新たな血管が出てくる。これは生体側としては、当然のリアクションで、虚血を防ごうと思って出るわけです。腎臓とは違い、眼ではこういう血管は破れると出血するので困るんですね。応援に出てきた新生血管が破れて出血したり、色々悪さをするわけです。

 レーザーで凝固すると、だんだんそういう因子が出なくなるので、新生血管が自然に減っていくという治りかたもあります。ただ先ほどのレーザーと違って、これは凝固して新生血管が出なくなるのを待つわけですから、レーザーをやって直ぐ見えるようになるわけでは無いのです。最低三ヵ月は掛かるので、レーザー治療で却って見えなくなったと勘違いする人もいます。事前にちゃんと眼科医が詳しく説明しておけば、そういうことは言わないと思うのですが。

 患者さんもレーザー治療の目的はあくまでも新生血管が出なくなる予防策で、かなり時間のかかる治療になる事を理解して欲しいです。10年先、20年先になるとレーザーをやった眼と、やってない眼では明らかに視力の予後が違うので、レーザー治療は非常に有用な方法だと思います。

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