14年東海懇話会講演2

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●糖尿病網膜症
 眼の中に、新生血管がいっぱい出てくるのが糖尿病網膜症です。蛍光眼底造影検査をすると、新生血管が出ている網膜の外側に、色素のないところが見つかります。これは血液が流れていないことを示しています。網膜の血管は細いので、高血糖の状態が続くと損傷され、血液が流れにくくなってきます。糖尿病網膜症も、血流が悪くなった結果起こる病気です。

 何故新生血管ができるかと言いますと、人間の体の細胞には酸素が必要ですが、酸素は血液が運んできます。血液の流れが悪くなると、網膜の細胞も酸素が欲しいと言い出します。すると網膜から、血管を増殖させる物質(VEGF:血管内皮増殖因子)が分泌されます。

 新しい血管を作れば、血液が流れて来て酸素がもらえるので、網膜の酸素不足のところは、この物質をたくさん分泌し、新生血管をいっぱい作ります。しかし、このような血管はもろくて切れやすいので、出血して失明するというのが糖尿病網膜症です。

 新生血管を止めるために、レーザーを打って網膜を潰すという治療が行われます。正常な網膜の一部が犠牲になりますが、網膜が必要とする酸素の量を減らすことができます。そうなると、少ししか入って来ない血液でも全体に回ってバランスがとれるようになりますので、新生血管の増殖が止まります。レーザーは現在も硝子体手術の前の段階で行われるもので、この方法で視力を保ち続けている人は多いです。
●加齢黄斑変性
 いよいよここから加齢黄斑変性の問題に入っていきます。加齢黄斑変性には、二つのタイプがあります。
◎乾性加齢黄斑変性(萎縮型)
 この病気は昔からあるもので、私たちも若いころからこの病名は知っていましたが、あまり多くはありませんでした。滲出型と違って網膜に余分な水分はなく、網膜色素上皮が徐々に委縮していって、視力が障害される病気です。残念ながら、この病気の治療法はまだありません。
◎湿性加齢黄斑変性(滲出型)
 今どんどん増えていて、問題になっているのは、このタイプの黄斑変性です。網膜が水分を含んで膨れ上がり、視力が落ちて来るという病気です。
滲出型の発症原因
 滲出型加齢黄斑変性の患者さんの眼に血管造影をしてみると、黄斑部に異常な血管(新生血管 )がたくさん出ています。黄斑部は、もともと視細胞がたくさん集まっているところなので血管がありません。裏側にある脈絡膜から血液が滲み出して、網膜に酸素を補給しています。

 ところがそこに、異常な血管が出て来ますと、血液の成分が漏れ出して、網膜が水膨れになり(網膜浮腫)、網膜が正常に働かなくなって、視力が落ちてきます。血管が破れて出血がおこり、視力が低下することもあります。

 これが滲出型加齢黄斑変性です。では異常な血管はなぜ発生するのかといいますと、先ほどお話した糖尿病網膜症の場合と同じです。年を取って網膜に十分血液が供給されなくなったため、網膜が酸素不足になり、新しい血管を作りだしてしまうのです。

 糖尿病網膜症では、高血糖のため血管が傷んできて、血液の流れが悪くなります。加齢黄斑変性では、加齢によって、血流が悪くなってきます。原因は違いますが、どちらも網膜が酸素不足になり、その結果新生血管ができるという点は同じです。
レーザーは使えない
 糖尿病網膜症のところで申しましたように、新生血管が出来るのは、その外側に血液の流れていないところがあるからです。そこでその血流のないところにレーザーを打つと、網膜の中の酸素を必要とする組織が減りますので、少ない血流で、何とかバランスがとれるようになります。

 しかし加齢黄斑変性で新生血管が出来るのは黄斑部です。視力にとって一番大事なところなので、ここにレーザーを打つと見えなくなってしまいます。新生血管は無くなりますが、視力ゼロになってしまうので、加齢黄斑変性では、レーザーを使った治療はできません。

 なぜ日本で滲出型加齢黄斑変性が増えたのか。最近日本でも、滲出型の加齢黄斑変性が増えてきました。その原因は何でしょうか。それは日本人の食生活が、欧米型に変わって来たことだと思います。

 欧米では100年前に既にこの病気がありました。その理由は油を食べることだと思います。欧米では油をよく食べます。歳をとってくると、油は血管の壁の中に入ってきて、血管の壁を厚くします。厚くなるので、破れはしませんが、内腔が狭くなり、血液の流れが悪くなります。

 一方日本人は塩分を食べます。塩分が血管壁に入ると、血管壁が薄くなり、脆くなります。そのため昔日本人は、脳出血で死ぬ人が多かったのです。ところが、日本人も油を食べるようになり、脳出血で死ぬ人は減りましたが、その代わり加齢黄斑変性が、欧米並みに増えてきたのではないかと考えています。

 この他眼に有害な摂取物が、煙草とアルコールです。煙草はニコチンが血管を収縮させます。煙草を吸うと、動脈硬化があまり無くとも、血管は収縮して細くなり、血液の流れが悪くなります。ですから煙草は止めていただくのが眼にとってもよいことです。私の父はヘビースモーカーだったので、私はそれに反発して、小学生のころから煙草は吸わないと決めました。

 煙草の害についてはまだ何も知りませんでしたが、以来今日まで煙草は吸いません。煙草は、吸っている人はもちろん、周囲にいる人にも、ニコチンの入っている副流煙で、影響が出ないという保証はありません。自分や家族の健康のために、煙草はできるだけやめて頂くのが一番です。本数を少なくするだけでも効果はあります。

 一方アルコールで問題になるのは量です。一日に飲む量が、日本酒にして一合を超えると、「多い」ということになるようです。以前は、1週間に1日お酒を飲まない日を作れと言われていましたが、最近の研究では、日本酒1合以下なら、休肝日はいらないということになってきました。
●加齢黄斑変性の治療
◎光線力学的療法(PDT)
 新生血管を潰すのはレーザーが有効ですが、黄斑部には使えません。そこで10年ほど前に、レーザーを使って新生血管だけをつぶすという方法が考案されました。これが光線力学的療法(PDT)です。

 この方法は、まず最初に「ビズダイン(ベルテポルフィン)」という光に反応する薬剤を腕の血管から注射します。この薬剤は新生血管に集まる性質がありますので、しばらく待ってから、眼に弱いレーザーを照射します。すると薬剤の集まっているところにだけレーザーの効き目があり、周りの正常な組織はダメージを受けずに済むという方法です。私もこの方法で何人か治療してみましたが、あまり効果はありませんでした。
◎薬物療法
 その後出てきたのが薬物療法です。糖尿病網膜症と同じく、新生血管の発生は、血管を増殖させる物質 (VEGF:血管内皮増殖因子)が、眼の中で増えることによって起こります。そこでこのVEGFを阻害する薬物を、直接眼球に注射するという方法が考案されました。

 最初は7〜8年前に、アバスチンという薬がアメリカで使われるようになりました。よく効くという論文を読んで、早速名古屋大学の人たちと相談し、厚生省に頼んでアバスチンを輸入してもらいました。

 アバスチンは20種近くの薬が入っているので、副作用の起こることがあります。その後、この中から眼に効くと言われている2つの材料を取り出して、ルセンティスという薬が発売されました。これはアメリカで開発されたもので、すごく評判がよかったのですが、実際使って見ると、そんなに効くという印象がありませんでした。

 そこヘアイリーアという薬が出てきました。眼に効く薬2種類と、他に3種類、全部で5種類ぐらいの材料を取り入れたという報告を読み、早速アイリーアに替えました。ルセンティスでだめだった人に使うと、かなり効果があり、今はこれを使っています。ただし、全部がアイリーアで治るわけではありません。
●薬物療法の効き目
 覚えておいて頂きたいのは、新生血管が発生してから時間が経つと、どの薬も効かなくなるということです。

 PDT(光線力学的療法)でだめだった人に、ルセンティスが出てから試してみると、全然効きませんでした。そういう人はアイリーアを使ってもやはり全く効果がありません。

 加齢黄斑変性は、とにかく早く見つけて、早く治療することが大事です。そうすると、薬物療法できれいに治ります。私は患者さんに、ある程度治っても、1ヶ月に1度は通院してくださいと言っています。この病気は再発して、また新生血管が出てくることがありますが、治療が遅れると、治りが悪いからです。この薬物の有効な使用方法は、発症の初期に施行することです。発症後長期間を過ぎると、有効性はなくなります。

 次にいくつか加齢黄斑変性のOCT画像をお見せします。この例はここに新生血管があり、滲出物も出ていますが、治療するときれいになりました。これは治療後の画像で、視細胞の配列がきちんとしているのが分かります。こうなるとよい視力が出てきます。

 次の例は、網膜剥離が何箇所にも見られ、これは大変だと思ったのですが、早期に発見できたので、きれいに治すことができました。この方も大きな剥離がありましたが、きれいに治癒しました。治療をする前の視力は0.1ぐらいでしたが、注射をすると、1.0に戻りました。
●早期発見・早期治療
 加齢黄斑変性について、今日のお話をまとめます。

 ○加齢黄斑変性は早期に発見し、早期治療するのが大事です。

 ○診断にはOCTによる検査が必要です。

 ○加齢黄斑変性の初期症状は、物が歪んで見えることです。異常を感じたら、視力があっても、すぐ眼科で診察を受けてください。

 ○再発もあります。両眼で見ていると分からないので、片眼ずつで見る習慣を付けてください。

 歪みが酷いときは、両眼で見ていても歪んでいる感じがします。治ってくると、両眼で見たときは歪みが分かりません。片眼ずつで見て、初めて歪みに気が付くことがあります。
●質疑応答
 私のお話は以上です。これからご質問を受けたいと思います。
◎加齢黄斑変性の治療
質問

 現在、加齢黄斑変性の治療の主流は何ですか。


 
 薬品名アイリーアという薬を、硝子体に注射する方法です。
アイリーアは、2012年に承認されました。血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬の一つで、今のところ世界で一番よく効くいい薬です。

 ただこの薬は高いです。70才以上の方ですと、保険で1割になるのですが、3割負担だと辛いです。原価は1本17万円ぐらいで、それを1ヶ月に1本ずつ3回注射しますので、3割負担の人ですと、17万円ぐらい掛かります。1割ですと6万円ぐらいです。

 イリーアは、50才以上の人しか保険が使えません。この薬が保険適応となる疾患は加齢黄斑変性ですが、50才以上の方でないと、加齢黄斑変性とは言わないからです。若い人にも、特発性黄斑変性と言って、同じような症状があるのですが、この薬は使えません。アバスチンも保険が効かない薬ですが、少々私達の持ち出しになっても、若い人が安く使って治療に励んでもらいたいと思い、若い患者さんにはアバスチンを使っています。
◎加齢黄斑変性は両眼に?
質問

 加齢黄斑変性は片眼に出ると、反対の眼にも出るのでしょうか。

 出ることはあります。左右が同時にということは少ないですが、片方に遅れてもう片方も、加齢黄斑変性になることはあります。

◎血液の循環を良くする薬
質問 

 加齢黄斑変性は治療しても進行することがありますか。

答 

 進む可叱化性はあります。加齢黄斑変性という診断がついても、まだ浮腫が無い初期の場合には、薬を使っても効かないことがあります。そのときは少し様子を見ることもありますが、浮腫が出てきたらなるべく早く薬を使わないと、後では薬が効かなくなります。

 診断で異常があることが分かったら、面倒でも1ヶ月に1回診てもらってください。浮腫は注射でよく取れるのですが、浮腫がなくなっても、まだ完治していないというケースがあります。このような状態になると、注射はあまり効きません。これ以上高い薬を使うと、患者さんの負
担が大きくなってしまいます。

 私はこういう場合、原因は血液の循環にあるのだろうと考え、血液の循環を良くする薬を使って様子を見ます。これはまだ報告はしていないのですが、割合視力が良くなる人がいます。

 これまで眼科で使っている薬は、害のない薬が多いのですが、実はそういう薬はあまり効きません。以前勤務していた病院では、緑内障で視野が欠けて、失明寸前になっている人が複数いらっしゃいました。色々な薬を使ったのですが、なかなかよくなりません。

 その頃心臓の悪い人が使うという薬が出てきましたので、その薬を使ったところ、一年ぐらいで失明してしまうと思った人が、十年以上視力を保ちました。それで私は今、その薬を使っています。その薬が良いという論文を書いたのですが、眼科ではまだあまり使われていません。

 私の専門は網膜剥離なので、血液循環については、あまり知識がないだろうと思われているのかもしれません。薬に多少危険があるので、そのせいかもしれません。

 糖尿病網膜症で手術をして、きれいに治り、視力が回復した人でも、しばらくすると眼底は何ともないのに、視力が悪くなる場合があります。そういう人にも、その薬を使うと、約半数の方で視力が回復しています。将来的にどうなるかは分かりませんが、今はそういう薬を使ってい
ます。(会報242号から転載)

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